地方創生SDGsとは?

考える人、山の風景

世界的な取り組みとして、日本でもひんぱんに耳にするようになったSDGs。少子高齢化が進む日本においては、地域の成長力を確保するためにSDGsを活用する「地方創生SDGs」という独自の取り組みが、政府主体で促進されています。

この記事では「地方創生SDGsとは何か」をテーマに、詳しい内容や目的、そして自治体と企業をつなぐ「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」について解説します。

地方創生SDGsとは

地方創生SDGsを理解するためには、「地方創生」と「SDGs」に分けて考えるとスムーズです。
SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略で、日本語にすると「持続可能な開発目標」となります。
SDGsは2015年に国連本部で開かれた「国連持続可能な開発サミット」で採択された2030年までに世界が達成すべき目標のことで、17の目標と169のターゲットで構成されています。

地方創生とは、ひとことで言うと地方が将来にわたっての成長力の確保を目指すことです。
地方創生SDGsは、地方創生とSDGsを組み合わせたもので、地方創生のためにSDGsの推進を原動力にしようとするものです。

地方創生とSDGsの関連性

男女が握手、オフィス背景

SDGsと地方創生には一見すると乖離があるように感じるかもしれません。しかし、地方創生とSDGは決して矛盾がある概念ではありません。

地方創生は具体的には、少子高齢化に歯止めをかけ、地域の人口減少と地域経済の縮小を克服し、将来にわたっての成長力確保を目指すことを言います。これを実現するためには、人々が安心して暮らしていけるような持続可能なまちづくりが必須です。

SDGsは「持続可能な開発目標」という通り、決して開発や発展を抑制しようとする概念ではありません。実際に17のゴールには「働きがいも経済成長も」「産業と技術革新の基盤をつくろう」「住み続けられるまちづくりを」といったものも設定されています。
むしろSDGsの理念に沿ったまちづくりを推進することで、政策の最適化や課題解決の加速化といった相乗効果が期待できます。

SDGsにおいては、17のゴール、169のターゲットと共に、進捗状況を測るための約230の指標(達成度を測定するための評価尺度)が提示されています。

具体的な行動指針としてそれらの指標を活用することにより、行政、民間事業者、市民といった異なる立場の間でも地方創生に向けた共通言語が生まれます。その結果として自治体業務の合理的な連携の促進や、政策に対する理解度が増し、地方創生の実現のための課題解決がスムーズになります。
つまり、SDGsの推進が持続可能なまちづくりと地域の活性化の実現につながり、地方創生の目標である人口減少と地域経済縮小の克服、といった好循環の確立につながるということです。

SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業

大人から子どもに植物の苗木を渡す

持続可能な開発という考え方は、2015年の国連サミットで生まれたものではなく、それ以前からあるものです。日本では2008年から、持続可能な経済社会の実現に向けて「環境モデル都市」と「環境未来都市」を政府が選定し、2018年からは「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」も新たに選定されるようになりました。

環境モデル都市には、日本を低炭素社会に転換していくため、温室効果ガスの大幅削減など高い目標を掲げて先駆的な取り組みにチャレンジする都市・地域が選定されます。

環境未来都市は、環境モデル都市の中から環境や高齢化といった人類共通の課題に対し「環境」「社会」「経済」の三つの価値を創造することで、「誰もが暮らしたいまち」「誰もが活力あるまち」の実現を目指す、先導的プロジェクトに取り組んでいる都市・地域が選定されます。

SDGs未来都市は、環境未来都市の中から地方創生の促進を目的として、SDGs達成に向けた取り組みを提案する都市が選定されています。そしてさらにSDGs未来都市が実施している取り組みのうち、先導的なものが自治体SDGsモデル事業として選定されています。2018年度から始まり、2020年度までに93都市が選定されています(各年度最大30都市)。

自治体SDGsモデル事業はSDGs未来都市の取り組みの中でも特に注力的に実施する事業で、持続可能な開発を実現するポテンシャルが高く、多様なステークホルダーとの連携を通し、地域における自律的好循環が見込める事業とされています。
自治体SDGsモデル事業に選定されたものには補助金が交付されます。自治体SDGsモデル事業は、SDGs未来都市から10の事業が各年度に選定されます。

「環境モデル都市」「環境未来都市」「SDGs未来都市」の3つは、持続可能な経済社会を実現する都市・地域づくりという観点での違いはありませんが「SDGs未来都市」は、SDGsの17の目標と紐づけられた評価軸で選定されている点に大きな特徴があります。

2021年度には以下の都市がSDGs未来都市に選定されています。

 ✅ 北海道上士幌町

 ✅ 岩手県一関市

 ✅ 山形県米沢市

 ✅ 福島県福島市

 ✅ 茨城県境町

 ✅ 群馬県

 ✅ 埼玉県   

 ✅ 千葉県市原市

 ✅ 東京都墨田区

 ✅ 東京都江戸川区

 ✅ 神奈川県松田町

 ✅ 新潟県妙高市

 ✅ 福井県福井市

 ✅ 長野県長野市

 ✅ 長野県伊那市

 ✅ 岐阜県岐阜市

 ✅ 岐阜県高山市

 ✅ 岐阜県美濃加茂市

 ✅ 静岡県富士宮市

 ✅ 愛知県小牧市

 ✅ 愛知県知立市

 ✅ 京都府京都市

 ✅ 京都府京丹後市

 ✅ 大阪府能勢町

 ✅ 兵庫県姫路市

 ✅ 兵庫県西脇市

 ✅ 鳥取県鳥取市

 ✅ 愛媛県西条市

 ✅ 熊本県菊池市

 ✅ 熊本県山都町

 ✅ 沖縄県   

このうち、「自治体SDGsモデル事業」として選定された10の自治体と事業内容をまとめました。

自治体 自治体SDGsモデル事業名
北海道上士幌町 「スマートタウンで “弱点” 転変!かみしほろ幸せ循環」プロジェクト
千葉県市原市 化学×里山×ひと

~SDGsでつなぎ、みんなで未来へ~

東京都墨田区 産業振興を軸としたプロトタイプ実装都市

~ものづくりによる「暮らし」のアップデート~

新潟県妙高市 みんなでつくる生命地域 Redesignプロジェクト
岐阜県岐阜市 山水と都市が育むWell-beingなライフスタイル創造事業

~「つかさのまち・シビックプライドプレイス」が繋ぐ人と人、人とまち~

岐阜県美濃加茂市 「ローカルSDGsみのかも」=地域循環共生圏の実現に向けたソーシャルビジネス創出モデル事業
京都府京都市 京都の文化が息づく3側面,“みんなごと”で取り組む レジリエンスモデル

~SDGsのその先へ~

愛媛県西条市 LOVESAIJOポイントを介して「ヒト」と「活動」が好循環する持続可能なまち西条創生事業

(「西条市SDGs×西条市DX」の推進による地方創生の実現)

熊本県山都町 有機農業を核とした有機的な繋がりが広がる町の実現
沖縄県 誰一人取り残さない持続可能な美ら島「沖縄モデル」推進プロジェクト

自治体SDGsモデル事業の一例として、京都市の自治体SDGsモデル事業「京都の文化が息づく3側面、“みんなごと”で取り組む レジリエンスモデル~SDGsのその先へ~」について、簡単に概要を紹介します。

京都市では「経済」「社会」「環境」の3つの側面をつなぐ統合的な取り組みとして、「京都産学公SDGsプロジェクト」「公民連携・課題解決推進事業」「国連大学との連携協定事業」が実施されます。

具体的には「京都産学公SDGsプロジェクト」では持続可能な里山モデルの構築、情報発信や循環型社会の実現、SDGs教育の推進などを行い、「公民連携・課題解決推進事業」では公民一括の窓口を設けることで社会・行政課題解決に公民連携で取り組む体制づくりを行います。
そして「国連大学との連携協定事業」では京都をフィールドに社会実験を行うと共に、ビジネスモデルの構築と国内外への展開を目指すとしています。

これらを実施することで「社会課題の見える化」と共に「多様な主体が協働して課題解決に取り組む『場(テラス)』」をつくります。そしてその「場」では必要な技術支援や投資といったそれぞれの主体のリソースを出し合い、強みを活かして協働することで、好循環を生み出す仕組みづくりを構築することを目標にすると発表されています。

地方創生SDGs官民連携プラットフォーム

地方創生SDGsを推進していくためには、各地方自治体だけ活動するのではなく専門性を持った民間企業や大学、NGO、NPO、研究機関といったさまざま団体組織と官民連携が必要不可欠です。官民が連携することで、企業が事業活動を通じてSDGsを達成しようとする機運も生まれやすいです。

そうした中、2018年に内閣府が事務局となって設置されたのが「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」です。地方創生SDGs官民連携プラットフォームは、その名の通り地方自治体が、民間企業や大学などとパートナーシップを結んだり、イノベーションの加速を生み出したりするためのマッチングの場です。

地方創生SDGs官民連携プラットフォームに参加すると、大きく分けて3つのメリットがあります。

メリット1:マッチング支援が受けられる

ジグソーパズルのピース2つ

地方創生SDGs官民連携プラットフォームに参加する最大のメリットは自治体とつながるための支援が受けられる点です。
マッチング支援では、地域の課題とそれを解決するための民間団体と知見の共有が進むよう、プラットフォームが情報共有の基盤になります。
自治体と民間企業や団体とのマッチングの流れは以下のようになっています。

1:自治体が「自治体リクエストシート」の作成・提出
自治体リクエストシートとは、SDGs達成に向けて解決したい地域課題、これまでの取り組み、今後の計画や予算、連携したい団体や企業の業種、専門領域、提案を求めたい内容などを記入するものです。自治体がこのシートを運営事務局に提出するところからマッチングが始まります。

2:企業や団体が「民間提案シート」を作成、提出
企業や団体は、専用のデータベースを参照し、情報収集を行い、提案に取り組みたい自治体のリクエストシートを紹介します。企業・団体側は、自治体の要望に対して自社情報や解決したい地域課題、提供したい自社サービス、自治体に期待したい支援や役割を「民間提案シート」に記入し、運営事務局に提出します。 

3:運営事務局が精査
運営事務局は提出された民間提案シートの内容が、自治体の課題解決につながる提案となっているかをチェックし、問題がなければ民間提案シートを自治体へ提出します。

4:自治体側で民間提案シートを精査、面談しマッチング
シートの提出を受けた自治体は、内容を確認し面談実施の有無を判断します。面談の場で両者の課題とニーズが一致すればマッチング成立です。 

メリット2:普及促進活動

セミナーの様子

地方創生SDGs官民連携プラットフォームの参加者は、自身が主催するイベントやセミナー情報をメールマガジンで発信でき、また他の参加者主宰のイベント情報の受信も可能です。

つまり、情報発信の点でも情報収集の点でもプラットフォームへ参加するメリットがあると言えます。参加にあたっての会費無料で、地方自治体や法人格を有する企業・団体であれば参加可能です。

メリット3:分科会へ参加可能

スマホを突き合わせる4人の手元

SDGs官民連携プラットフォームでは、参加団体からのテーマの提案に基づき、提案に賛同する会員が分科会に参加することができます。

分科会では、異分野連携による新たな価値の創出や、共通する課題に対する官民連携の促進、地方創生に貢献するプロジェクトの創出を目的としていて、多くの分科会が立ち上げられています。たとえば内閣府が提案者として立ち上げられた「企業版ふるさと納税を活用したSDGsの推進について」をテーマとした分科会があります。

プラットフォームを活用した官民連携事例

夕日の光の中を飛ぶドローン

SDGs官民連携プラットフォームが活用された事例として、長野県伊那市とKDDI株式会社の取り組みを紹介します。

長野県伊那市の山間地域では、店舗や配達手段の減少等により、高齢者を中心に食料品や日用品の買い物困難者が増加している現状があります。
そこでKDDIが提案したのが、長距離自立飛行と遠隔制御を可能とするドローンシステムによる配送事業です。既にシステムの構築は完了し、実働してから約2年が経過しています。

注文は地元のケーブルテレビのチャンネル画面で行い、午前11時までに注文した商品は、その日の夕方までにドローンで近隣の公民館へ配送されます。
注文した利用者は、ドローンで公民館へ届けられた商品を受け取りに行くという仕組みで、取りに行くことができない場合はボランティアが自宅まで配達を行います。代金はケーブルテレビ利用料とあわせて口座振替で引き落とされるため、支払いの手間もかかりません。

この取り組みは単純にKDDIと伊那市という2者のものではなく、地元のケーブルテレビ会社やドローン業者とも協力して行われています。まさに地方創生SDGsの理想ともいえる事業でしょう。

まとめ

地方創生SDGsへの取り組みはすでにたくさんの事例を生んでいます。官民の連携による地方創生は今後も益々盛んになるでしょう。

人口減少や高齢化、地域経済の縮小といった課題を抱える日本だからこその取り組みが増えていくことを期待します。

                   

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